美女と背広
「美女と背広 」
その夢の中で私は、背広を着て、営業に回っていた。
ケイタイでどこかの企業の担当者に電話をして、約束をとりつけようとしていた。
「ここの営業所も最近、えらい地震が起こってしもてな、大変やったんや」
「地震のことは私もよう知ってます。その近くの営業所にいましたから」
「あ、そうなん?」
「そうです、私がいた営業所は、見事につぶされてしまいました、ビルごと破壊されてしまったから、まあ当然なんですけどね」
「ひどいめにあったんやね」
「はいひどいめにあいました。そのあとの片付けとかがそれはもう大変でした」
私の方は、話している相手が、窓越しから見えたのだけど
向こうは、相手が窓ごしに見える私だとは気づかずに、窓ごしの私が気になるらしく、ちらちらとこっちを見ながら話している。
「実は、私、御社のすぐ近くから電話をさせてもらっています」
担当者の顔色が変わった。もしかして、と、今度はちらりではなく、しっかりとこっちを見た。
私は、そんな彼の目を見て、にっこりと微笑んだ。
彼は、驚き、すぐに照れたようにうつむいた。
ところで夢の中の私は、絶世の美女という設定になっていたというか、自分が絶世の美女であると思い込んでいた。
この私の笑顔さえあれば、きっときっときっと、契約にこぎつけることができる。
そう確信していた。
だけど私の着ている背広のズボンはブカブカで、時折りずり落ちそうになっていた。
それを片手でなんとか持ち上げてケイタイで話を続けていた。
話しにくくてしょうがなかった。
それにしても、なんであんな男ものの背広なんて着ていたのだろう?
何度もずり落ちそうになるズボンをどうにかこうにか持ち上げながら
それでも私は、なんとか契約にこぎつけようと必死だったのである。
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